事務局メンバーによる、OpenID関連のあれやこれや
OpenID Foundationの理事会は、2025年6月2日にIdentiverseで「Take on the Landscape」というセッションに登壇したことを誇りに思います。
本セッションは、エグゼクティブディレクターであるGail Hodges氏が進行役を務め、相互運用性テストの拡大からAgentic AI、年齢保障、そしてデジタル資産計画のようなユースケースを支える重要な新規仕様に至るまで、アイデンティティエコシステム全体に対して急拡大するOpenID Foundationの影響に焦点を当てました。
セッションは、相互運用性イベントのモメンタムと、いくつかのOIDF仕様ファミリーの有効性を証明することに焦点を当てて始まりました。この8か月間で、OIDFは世界中で15回の相互運用イベントとハッカソンをサポートしました。現実の実装におけるOpenID仕様の採用とテストが加速されています。
理事会メンバーはその目に見える利益を強調しました。Atul Tulshibagwale氏(SGNL)は、1年あまりで3回のShared Signals相互運用イベントを主導し、これらのイベントが実装者に明確な目標と実展開のプレッシャーテスト(新しい技術や仕様を現実の環境で実際に試し、その効果や安定性を確認する)の場を提供することを述べました。同イベントでは、AuthZen仕様の最初の相互運用イベントも開催されました。その2つの相互運用イベントの結果は4月2日に公開され、Gartner IAMサミット来場者が仕様を直接観察するために列をなす熱気を帯びた様子が報告されました。
OIDFの財務担当であるNancy Cam-Winget氏は、先日、OIDFが共催したカリフォルニアDMVハッカソンに彼女のCiscoチームが参加したことを話しました。このイベントでは、複数のベンダーがDigital Credentials Protocols(DCP)ワーキンググループ内で仕様の成熟度を向上させ、さらに非集中型クレデンシャルをさまざまな業界の使用可能であることを示しました。
副理事長のDima Postnikov氏は、最近あったスウェーデンでの相互運用イベントでの活気とコラボレーションを強調しました。このイベントでは、OpenID Federationの専門家が集まった信頼できる環境で、残っていた仕様のギャップを特定し、解消することができました。
Gailは、5月5日に行われた最新のOpenID for Verifiable Credentialsテストイベントについても言及し、実装者が90%以上の合格率(ペアごとの集計結果と単一のVerifierを使ったマルチウォレットテストの両方で)を達成したことを述べ、仕様が厳密かつ相互運用可能であることを強力に裏付ける結果を示しました。
パネルセッションで目立ったテーマのひとつに、「権限委譲」に対応するOIDF仕様に対する需要の高まりがありました。これは、複数の新たなユースケースを支える基盤的な要件となります。オンライン上での子どもの保護(年齢確認を通じて)から、安全なAgentic AIとの相互作用の実現や、死後のデジタル資産管理に至るまで、このテーマは今後最も重要な仕様ニーズのひとつとして強く認識されています。この仕様は、OIDFのeKYCおよびIDAワーキンググループによって進行中です。
理事長の崎村夏彦氏は、OIDFの仕様開発モデルの柔軟さを強調しました。この仕様を最終化に向けて進めるためには、相互運用可能な2つの実装と60日間の公開レビューが必要ですが、アプローチの合意を含め、その他全てのプロセスが順守されていることが条件です。この柔軟でありながら堅固なプロセスは、アイデンティティとAIが交差する進化する需要に非常に適しています。
Gail氏は、OIDFが現在、仕様の入念な審査、認定、戦略的取り組みを通じてサポートしている26のエコシステムを紹介しました。この中には、オープンバンキング、医療、データ、アイデンティティ分野での取り組みが含まれ、多くが新興市場に焦点を当てたものです。Gail氏は、これらの取り組みがグローバルサウスやグローバルノースの国々にまたがり、一部の地域では複数のエコシステムが存在していることを述べました。
Ali Adnan氏は、Authleteが世界中の多様なエコシステムで直接的な経験を持っていることと、これらのエコシステムで実装が市場に広がるためにOIDFが果たす重要な役割を強調しました。また、OIDFがどのように一貫した仕様の展開、自己認証プログラム、継続的な関係管理を通じて彼らの目標を支援しているかを説明しました。
崎村氏は、世界人口の大部分が居住する国々のニーズを優先する重要性を強調しました。これらの市場の声に耳を傾けることで、OIDFの仕様は本当の意味でグローバルな連携を実現するものとなります。
Dima氏は、新しいエコシステムコミュニティグループの取り組みを拡大し、政府や実装者がセクター全体での採用を加速するためのリファレンスアーキテクチャを開発していることを共有しました。また、Gail氏は、デジタルアイデンティティの国境を越えた相互運用性を可能にすることに焦点を当てた、SIDI Hubのような複数の関係者による取り組みの共同主催者としてのOIDFの役割の重要性についても言及しました。
このテーマのコンテキストを説明する一環として、理事会はFaster Payments、オープンデータ (Open Data)、およびデジタルアイデンティティ (Digital Identity) の収斂について検討しました。これらのユースケースを一緒に結びつけた形で始める国もあれば、個別に取り組みを開始する国もあります。
また、理事会は、これらの3つのユースケースが、いくつかの他の要素と統合されながら、新しいパッケージとして、「デジタル公共インフラ(Digital Public Infrastructure: DPI)」と名付けられていること注視しました。この用語「DPI」は、グローバルサウス(発展途上国)の参加者たちの間では一般的ですが、グローバルノース(先進国)の間ではあまり使用されていません。また、OIDFは、DPIが電子署名 (eSignatures)、デジタルガバメント (Digital Government)、および戸籍 (Civil Registries) に関するいくつかの追加領域も含む傾向があることを指摘しました。しかしながら理事会は、DPIを単一の包括的な枠組みの下に結びつけることは、ガバナンスを複雑にする可能性があると指摘しました。特にFaster Paymentやデジタルアイデンティティのような分野では、特定の国や地域の枠を超えた複数の組織や企業が関与しており、1つの管轄組織だけで統制することが難しくなる傾向があるためです。
しかし、これらのユースケースをどの視点で捉えたとしても、理事会は、これらのユースケースを支える下層のレイヤーが存在し、それがセキュアで相互運用可能な実装とエコシステムを実現するために必要不可欠であると強調しました。これらのユースケースを支える仕様の専門的な団体として、またスケーラブルな認証サービスの提供者として、OIDFの理事会は、セキュリティ、相互運用性、グローバル規模、そして運用効率という目標を達成するため、現存する、そして新たに生まれるエコシステムパートナー(公共および民間部門が主導するパートナー)を支援する中心的な役割を果たし続けたいと考えています。
OIDFの理事会は、パネルディスカッションや貢献をしてくださったすべての方々に深く感謝の意を表します:崎村夏彦氏、Dima Postnikov氏、Nancy Cam-Winget氏、Atul Tulshibagwale氏、Ali Adnan氏、そして議論を進行してくださったGail Hodges氏です。そして、この重要なテーマを取り上げてくださった Andi Hindle 氏とIdentiverseのコンテンツ開発チームにも特別な感謝を申し上げます。