事務局メンバーによる、OpenID関連のあれやこれや
2026年10月5日、デンマーク政府は、同国の国民登録簿であるCentral Person Register(CPR)において、権限のない第三者が約880万人分のデータにアクセスしたと発表しました。このデータには、居住者、国外在住者、死亡者の氏名、住所、CPR番号が含まれています。この攻撃は、ある企業が持つ登録簿への正当なアクセス権を悪用したものです。現在、警察が捜査を進めています。
今回の侵害は、既存の助言の正しさを改めて裏付けています。すなわち、組織はユーザーの認証に個人データを用いるべきではない、ということです。
多くのサービスでは、今でも本人確認のために、住所、ID番号、生年月日などの個人情報の確認を求めています。これは知識ベース認証と呼ばれます。しかし、これはその人がデータを知っていることを示すだけで、本人が主張するとおりの人物であることを示すものではないため、保証レベルは低くなります。
個人データはユーザー認証には適していません。ソーシャルメディアやデータ侵害を通じて容易に入手できることが多く、単に推測できる場合もあります。また、パスワードとは異なり、一度漏えいすると簡単には変更できません。
今回の侵害は、これまで公開されていなかった個人データであっても、いつでも漏えいし得ることを示しています。こうした侵害は、長年にわたる世界的な問題です。これまでにも他国で国民ID情報やその他の個人データが流出しており、その例として2016年のトルコや、インドでの複数のインシデントが挙げられます。インドでは、Aadhaar番号のコピーを保持していた第三者のシステムから、Aadhaar番号が流出しました。
知識による確認項目を増やすことは短期的には役立つかもしれませんが、そのデータも次の侵害で漏えいする可能性があります。さらに、追加の確認に用いるデータがすでに漏えいしていないことを検証するのは困難です。
セキュリティに関するガイダンスも、この点を反映しています。たとえばNIST SP 800-63-4は、知識ベース認証は「デジタル認証において許容可能なシークレットとはならない」としています。
今回の侵害を受けて、デンマークのResilience Agency(レジリエンス庁)は新たなガイダンスを公表し、流出したデータを用いた知識ベース認証は、アカウント復旧などの高リスクの場面では十分とみなすべきではないとしています。
同庁が第一に推奨しているのは、国の電子IDに基づく強力な認証を用いることです。
多くの組織では、ユーザーがオンラインでログインする際に、認証アプリや国の電子IDなどによる強力な認証をすでに使用しています。OpenID Connectは、こうした認証方式を提供するIDプロバイダーとの連携に広く使われている標準です。しかし、電話対応のように強力な認証の実装が難しい場面では、今でも知識ベース認証がよく使われています。攻撃者は組織のセキュリティモデルの中で最も弱い部分を狙います。そして個人データが漏えいした場合、その弱点は電話窓口やアカウント復旧プロセスであることが少なくありません。
アクセスが許可されるのと同じデバイス上でユーザーを認証することが、依然として最も安全な選択肢です。電話対応ではそれができませんが、ユーザーが別のデバイスで確認を行う、いわゆる「decoupled」flowであれば、強力な認証を行うことは可能です。たとえば、カスタマーサポート担当者が通話中に、発信者の電子IDアプリへ直接リクエストを送ることができます。OpenID Connect Client-Initiated Backchannel Authentication(CIBA)は、これを実現するために策定された標準です。
decoupled flowでは、フィッシングや中間者攻撃を防ぐために、さらなる注意が必要です。特に組織は、認証を特定の通話に結び付けて攻撃を困難にするchannel bindingを実装すべきです。その方法の1つとして、ユーザーの認証アプリにランダムなコードを表示し、ユーザーがそれを担当者に読み上げ、担当者は自社のシステムが送信したリクエスト内のコードと一致することを確認してから手続きを進める、というものがあります。
オープン標準を基盤とすることで、強力な認証の実装と保守が容易になります。OpenID Connectは同一デバイスでの認証を、CIBAはdecoupled flowを実現します。これらの標準は広くサポートされているため、採用した組織はゼロからやり直すことなく、さまざまなベンダーと連携したり、ベンダーを乗り換えたりできます。金融機関など高いセキュリティ要件を持つ組織は、セキュリティを重視したFAPI-CIBA適合性プロファイルに対してOpenID Certifiedを取得しているベンダーを選ぶことが望ましい場合もあります。認定では、綿密なテストスイートを用いて標準への準拠を検証します。
個人データが漏えいしたのは今回の侵害が初めてではなく、これが最後になることもないでしょう。
OpenID FoundationのAB/Connectワーキンググループの共同議長であるFrederik Krogsdal Jacobsen氏は、次のように述べています。「知識ベース認証が安全でないことは、以前からわかっていました。今回の侵害は、いまだにそれに頼っているすべての組織に対し、自らと顧客を深刻なリスクにさらしていることを思い起こさせるものです。幸いなことに、より優れた解決策が存在し、OpenIDの標準に基づく技術を選択すれば、幅広いベンダーと容易に連携できます。」
OpenID FoundationのMODRNAワーキンググループ(CIBA仕様を策定)の共同議長であるBjorn Hjelm氏は、次のように述べています。「CIBAは、まさにこうしたケースに対応するために策定されました。CIBAを活用することで、組織はセキュリティ態勢を強化し、顧客をよりよく保護できます。」
デンマークのユーザーの認証に個人データを用いている組織は、早急に代替手段を見つける必要があります。それ以外のすべての組織にとっても、知識ベース認証はいつ起きてもおかしくないセキュリティインシデントです。今こそ、強力な認証へ移行すべき時です。
学術研究に参加しているのが誰なのか、そしてその人と機関との結び付きが現在も有効なのかについて、機関はどのようにして確信を持てるのでしょうか。オーストラリアには現在、この問いに答えるための全国共通のベースラインがありません。
これは、Australian Digital Trustコミュニティグループ(ADT CG)が回答の中で取り上げた主要な課題の1つです。この回答は、Higher Education Standards Committee(HESC)の研究セキュリティに関する意見募集に対して提出されたものです。
OpenID Foundationの下で活動するADT CGは、研究セキュリティと開放性は両立し得ると主張しています。回答では、正当な共同研究を妨げることなく、オープン標準によって研究セキュリティを強化できることを示したうえで、HESCに対して次の分野に注力するよう求めています。
ADT CGは、オーストラリアのデジタルアイデンティティおよびトラストのエコシステムに携わる専門家のための中立的なプラットフォームを提供しています。その目的は、相互運用可能で標準に基づくデジタルトラストサービスの認知度を高め、その普及を推進することです。HESCへの回答は、こうした活動の一例です。オープン標準が重要となる分野において、ADT CGが国の政策形成に貢献していることを示しています。
今回の提出物は、HESCに対して既存の能力を活用するよう推奨しています。実装者は、OpenID Foundationが提供する無料のオープンソースの適合性認定テストを使って、すでに自らの導入環境をテストできます。今後HESCが適合性評価制度を設ける場合には、OpenID Foundationの自己認定による認定プログラムとアクレディテーションプログラムを活用できます。
Australian Access Federation LtdのHead of Trust & Identity Strategy and Futuresであり、ADT CGの共同議長でもあるJohn Scullen氏は、次のように述べています。「OpenIDの標準は、オーストラリアやその他の国々において、研究の安全を確保するうえで今後ますます大きな役割を果たすと考えられます。オーストラリアの研究コミュニティには、これらのオープン標準と、エコシステムを支援するためにすでに提供されている適合性評価サービスを活用することを推奨します。」
OpenIDの標準は、研究・教育分野ですでに支持を広げています。GÉANTは、世界中の1万を超える研究機関を代表する80の研究・教育フェデレーションと連携しており、最近OpenID ConnectとOpenID Federationを採用しました。これらの標準は、SAMLからの移行を支え、研究・教育インフラの将来への備えに役立ちます。
世界各地の政府も、OpenID for Verifiable Credentialsを採用しつつあります。カリフォルニア州とインドではすでに運用されており、欧州ではeIDAS 2.0の下で開発が進められているほか、スイスや西バルカン諸国などでも採用が決まっています。
ADT CGの提出物の全文はこちらからご覧いただけます。
OpenID Foundationは、Biometric Updateを、近日開催のOpenID Well-Known Conferenceの公式メディアパートナーとすることを発表いたします。
2027年2月2日~4日にロンドンで開催される本カンファレンスは、OpenID Foundationにとって初のグローバルカンファレンスです。その目的は、デジタルアイデンティティおよび資格情報のエコシステムが、実装から広範な普及へと移行するのを支援することです。本カンファレンスでは、エコシステムのリーダー、実務者、標準規格の専門家が一堂に会し、普及とスケールを実現する方法についての教訓を共有します。
Biometric Updateの日々の報道は、デジタルウォレット、政府のIDプログラム、年齢保証、不正防止など、OpenID Foundationの標準が利用されている、または開発が進められている多くの分野を網羅しています。
その読者には、政府、金融機関、テクノロジープロバイダーが含まれます。その多くはIDシステムの導入に直接携わっており、本カンファレンスにとってまさにふさわしい参加者層です。
OpenID FoundationのExecutive DirectorであるGail Hodgesは、次のように述べています。「標準は、それを策定する人々と導入する人々が同じ対話の場にいるときに、スケールに到達します。私たちにとって初のグローバルカンファレンスは、こうした人々を一堂に集め、普及とスケールを実現するために何が必要かを議論する場です。Biometric Updateとのこのパートナーシップは、その対話を私たちの既存のコミュニティの外へと広げる助けになるでしょう。」
Biometric UpdateのPublisherであるStephen Mayhew氏は、次のように述べています。「デジタルアイデンティティにとって次の課題は、標準を、スケールして機能する、信頼できる相互運用可能なシステムへと変えることです。私たちの読者はそうしたシステムの構築と導入に直接携わっており、このパートナーシップは、OpenIDコミュニティの実践的な知見をより広いアイデンティティ業界に届ける機会となります。」
カンファレンスへの参加に関心をお持ちの方は、次のフォームからご登録ください:2027 OpenID Foundation Conference Interest Form。
カンファレンスのスポンサーに関心のある組織の皆さまは、Sponsor Prospectusで利用可能なパッケージの詳細をご確認いただけます。
組織は、AIエージェントを識別し、その許可された行動を制御するために必要なシステムを構築するよりも速いペースで、AIエージェントを導入しています。
これが問題となる重要な局面の1つが、エージェントがセキュリティ境界を越えるときです。たとえば、あるプロバイダーでホストされているエージェントが、別のプロバイダーでホストされているツールやサービスを呼び出す必要がある場合があります。それぞれの側が、アイデンティティ、信頼、権限について独自のルールを持っています。
ここにギャップが生じ、エンジニアが近道をとる可能性があります。そして、その近道の中でセキュリティが破綻し得るのです。
この問題への対応を支援するため、OpenID FoundationのArtificial Intelligence Identity Managementコミュニティグループ(AIIM CG)は、新たな論文A Protocol-Agnostic Threat Classification for Cross-Boundary AI Agent Authorizationを公開しました。
SemperisのDirector of Product Managementであり、AI Threat Modeling Group(AIIM CGのサブグループ)の議長を務めるSarah Cecchetti氏は、次のように述べています。「組織は今後も常に、プラットフォームをまたいでAIエージェントを接続する必要があります。本論文は、エージェントがあるプラットフォームから別のプラットフォームへ越境する際に何が問題になり得るかを示しています。これは脅威モデルであり、解決策ではありません。私たちは、アーキテクト、セキュリティチーム、プラットフォームプロバイダー、標準化団体に共通の出発点を提供したいと考えました。これらの脅威を明確に名指しすることで、業界が相互運用性に向けて取り組む共通の理由を提供できればと考えています。本論文はベースラインであり、今後、認証、認可、緩和策のガイダンスに関する取り組みを通じて、これを発展させていく予定です。」
本論文は、すべてのエージェントのトラフィックを単一のゲートウェイが制御することは決してないと主張しています。主要なプロバイダーはそれぞれ独自の前提に基づいて独自のゲートウェイを運用しており、その役割を競合他社に委ねることはありません。本論文が特定する脅威は、どのプロトコルや仕様が使われるかにかかわらず、こうした境界を越えることから生じます。本論文は次の点を取り上げています。
これらの脅威の多くはユーザーのフェデレーションでおなじみのものですが、エージェントはそれらをマシンの速度で引き起こします。本論文は、エージェントを人間のユーザーであるかのように扱うことが、これらすべてに共通する根本原因であると主張しています。
アーキテクトは、自らのエージェントが越えるすべての信頼境界を洗い出すべきです。また、各識別子、スコープ、トークンが両側でどのような意味を持つのかを確認すべきです。セキュリティ責任者は、事後の検知に頼るのではなく、認可時点での制御に投資すべきです。標準化団体とプロバイダーは、相互運用性をセキュリティ制御として扱うべきです。
OpenID Foundationは、本論文に取り組んだAIIM CGのメンバー、とりわけThreat ModellingサブグループとTaxonomyサブグループに感謝します。本論文は、エージェントのアイデンティティと認可に関する次の段階の取り組みに向けて、コミュニティに明確で共通の基盤を提供するものです。
論文の全文はこちらからご覧いただけます。
OpenID Foundationは、Australian Digital Trustコミュニティグループ(ADT CG)を通じて、Exposure Draft Privacy Amendment (Personal Data Protection) Bill 2026に関するオーストラリア政府の意見募集に回答しました。この意見募集は、オーストラリアのプライバシー法の現代化と強化を目的としています。
回答はこちらからご覧いただけます。回答では、オーストラリアのトラストスキームの下で事業を行うIDプロバイダー、ウォレットプロバイダー、資格情報の発行者、検証者、ブローカーにとって、本法案が実際にどのように機能するのかを取り上げています。
ダイレクトマーケティング、研究、大規模デジタルプラットフォームに関する規定は対象としていません。
ADT CGは政府に対し、デジタルアイデンティティスキームに共通する機能に本法案がどのように適用されるのかを明確にするよう求めています。これには次のものが含まれます。
回答では、それぞれの分野について、課題と具体的な要望(確認、具体例の提示、規制当局によるガイダンスなど)を示しています。
ID Partnersの共同創設者であり、ADT CGの共同議長でもあるDavid Hyland氏は、次のように述べています。「オーストラリア政府には、本法律を施行する際に、相互運用性を引き続き重視し、既存の能力を活用することを推奨します。OpenID Foundationの標準は、オーストラリアやその他の国々においてインフラを保護するうえで、今後ますます大きな役割を果たすと考えられます。グローバルなオープン標準団体の一員として、オーストラリアのコミュニティを支援する機会を歓迎します。」
ADT CGは、オーストラリアのコミュニティに対し、OpenID Foundationが提供する無料のオープンソースのテストを活用するよう推奨しています。実装者はこのテストを使って、自らの導入環境が仕様のセキュリティ、プライバシー、相互運用性、スケールに関する特性を満たしていることを示せます。
政府がOpenID Foundationの仕様を含むアクレディテーション制度や適合性評価制度を設ける場合、ADT CGは2つのサービスを検討するよう提案しています。OIDFが提供する低コストの自己認証による認定プログラムと、今後開始予定のアクレディテーションプログラムです。いずれもエコシステムが利用できます。
ADT CGの回答全文はこちらからご覧いただけます。